この度私は運よく大学から海外留学向けの研究費を獲得し,デンマークのデンマーク工科大学(Technical University of Denmark)に4か月弱滞在して研究を行うことが出来ました.
デンマーク(EU圏)に3か月以上滞在する場合Residence permit(≒ビザ)を取得する必要があります.
私のように自分で研究費(滞在費)を獲得して,大学等で研究活動を行う場合の滞在資格はゲスト研究者(Guest researcher)という事になります.
さらに私の場合,家族(妻1人,0歳の娘1人)を帯同家族(Accompanying family member)として一緒に連れて行きました.
デンマークのResidence permitについてはネットで調べるとワーキングホリデーの人の記録はたくさん出てくるのですが,研究者+家族帯同などといった非常にニッチな情報は例え英語で検索をかけてもほとんど見つからず,手続きの細々とした部分で結構苦労しました.
この記事では,その渡航に伴っていろいろと格闘した行政関係の諸手続きについて書き残しておこうと思います.
(研究者に限らず就労ビザ+家族帯同でデンマークに行く場合の手続きはだいたい共通なはずなので,そのような方にもお役に立てればと思います.)
なおここに書かれた情報は2018年末時点のものです.
1. 必要書類のアップロード
デンマークのResidence permitに関する手続きはデンマークの入国管理局(The Danish Agency for International Recruitment and Integration (SIRI))(https://www.nyidanmark.dk/en-GB)のホームページより行うことが出来,だいたいのことがネット上で完結します.
研究の関係でアメリカでJ1ビザを取得したこともあるのですが,その時に比べると書類の郵送とかも少なくとてもシンプルでした.
入国管理局のHPでYou wants to applyを押して,その後のガイダンスに従って自分に当てはまるResidence permitを選択します.
(ちなみにGuest researcherの場合はWork→サラリー無し→研究者Yesと行くとたどり着きます.)
たどり着いたページのHow to applyタブに載っているガイダンスに従って手続きを進めていけば基本的に大丈夫です.
Guest researcherの場合
Guest researcherの場合は下記の書類が必要になります.
- Documentation of paid fee.
- Copy of all pages of your passport, including the cover
- Invitation letter
- Documentation for completed Master's degree
- Documentation that you can support yourself during your stay
(必要額はゲスト研究者研究者+家族2人の場合およそ45万円/月)
- AR1 form
AR1 formは滞在先の機関に前半部分を書いてもらって,IDとパスワードを送ってもらい,後半を自分で記入します.その他の書類も基本的にはただ単に集めて,スキャンしたpdfファイルをネット上にアップロードするれば良いだけです.
とてもシンプルです.
が,この時点でいくつかトラップがあります.
トラップ1:Case order IDを早めに入手してはいけない
英語で書かれたガイダンスをちゃんと隅から隅まで読んでいたら大丈夫なのですが,実は申請で使うCase order IDは大使館で面談を行おうとする日と同じ月に発行しなければなりません (実質,書類を提出する直前に取得するのがベスト).間違えると,大使館に連絡していろいろ裏で調整してもらわないといけなくなるので要注意.
トラップ2:銀行の預金残高は早めに入手してはいけない
このトラップは私が引っかかったものです.なんでも早めに準備しようと思って,滞在中の費用を自力で賄えることの証明(Documentation that you can support yourself during your stay)の一つとして銀行の預金残高証明書を申請の2.5カ月前に取得し,提出しました.ところが大使館面談から1週間後くらいに「預金残高証明書は1か月以内に発行されたものしか受け付けないので最新のものを再提出すること」という手紙が届きました.「いったいHPのどこを見たらそんな情報が書いてあるんだ?」と思いましたが,しょうがないので手数料を払ってもう一度残高証明書を発行して再提出するはめになりました.
Accompanying family memberの場合
帯同家族のResidence permit申請に必要なのは下記の書類です.
- Documentation of paid fee
- Copy of all pages of your passport, including the cover
- Certified translation of family register ((妻)Marriage certificate, (子)Birth certificate)
- Documentation that you can support yourself during your stay
- Declaration and information signed by custody holder (子)
- MF1 form
ここにもトラップがあります.
トラップ3:必要なのにリストに書かれていない書類がある
これ,完全にHPの不備だと思うのですが,子供の申請に必要なDeclaration and information signed by custody holderがガイダンスの書類リストにありません.これについても大使館面談から1週間後くらいに「Declaration and information signed by custody holderが足りないので追加で提出するように」という手紙が家に届きました.ところがこの書類,どこにも説明が載っていません.いったいどうしたらいいのかとあちこち探したところ,ネット版ではなく紙(pdf)版のMF1 formにその欄があったので,そのページだけ印刷して,そこだけサインしたものをスキャンしてメールで追加提出したらOKでした.ちゃんと説明をHP上に明確に書いておいてほしいものです.
トラップ4:日本では英語の戸籍謄本がほぼ手に入らない
これに最も苦労しました.入国管理局HP上には母国で発行される(妻)Marriage certificate, (子)Birth certificateを提出するよう書かれていて,これは日本では両方とも戸籍謄本にあたります.もちろんデンマークの機関が日本語で書かれた書類を受理する訳がないので,英語版のものが必要になるのですが,英語版を発行してくれる自治体は日本でも本当にごく一握りです.(このグローバル化したご時世に立派なものです・・・)私の住んでいる京都市は発行してくれませんでした.「じゃあ一体どうしろと?」となる訳ですが,方法はあります.公証人役場を通すという方法です.手順は以下のようになります.
(1) 自治体の役場で戸籍謄本を入手する
(2) 戸籍謄本を外務省に送りアポスティーユ認証をうける.
(3) アポスティーユ認証を受けた戸籍謄本本体のコピーをとる
(4) 戸籍謄本の英訳を作成して印刷する.
(5) 「この英訳は正しいですよ」という宣誓書を作成して印刷する.(サインはまだしてはいけない)
(6) アポスティーユ認証付き戸籍謄本とそのコピー,英訳,宣誓書,申請料(1つ1万1000円!)をもって都道府県の公証人役場に行き,公証人の目の前で宣誓書にサインをする.そうして,アポスティーユ認証付き戸籍謄本のコピー+英訳+宣誓書+公証人証書をホッチキス止めしたものが貰える.(個人でやるときは戸籍謄本原本は一緒にしてはいけない)
(7) アポスティーユ認証付き戸籍謄本のコピー+英訳+宣誓書+公証人証書をホッチキス止めしたものをもって都道府県の法務省法務局に行き,アポスティーユ認証付き戸籍謄本のコピー+英訳+宣誓書+公証人証書+ハンコ付きの証明書をホッチキス止めしたものを貰う.
(8) アポスティーユ認証付き戸籍謄本のコピー+英訳+宣誓書+公証人証書+ハンコ付きの証明書をホッチキス止めしたものを外務省に送り,ホチキス止めした書類の束全体に対してアポスティーユ認証を貰う.
こうすることで,「アポスティーユ認証されたアポスティーユ認証付き戸籍謄本のコピー+英訳+宣誓書+公証人証書+ハンコ付きの証明書をホッチキス止めしたもの」が手に入ります.これがCertified translation of family registerとなります.
とんでもなく面倒くさい!
(そもそも日本の自治体が英語で戸籍謄本を発行してくれればこんな出費と苦労しなくて済むのですが,お役所が認めてくれないので時代が変わるまでしょうがない)
これらのプロセスは個人でも行う事ができます.しかし,過去に申請した人のブログ等を見ると,入国管理局の審査する職員によってはこれにプロの翻訳者の翻訳証明書を付けろと言ってくる場合があるようです.費用は倍ほどになってしまいますが,こんな馬鹿らしいスタンプラリーに費やす時間を削減する意味でも民間の翻訳事務所にお金を払って依頼するのが無難だと思います.私の場合,妻の分と子の分と2セット用意しました.(入国管理局に確認したところ2人申請するなら2セット用意せよとのこと.)
こうして苦労して集めた書類をネット上のシステムにアップロードして提出したら第一段階の終了です.集めた書類の原本とスキャンしたデータは絶対に無くさず取っておいて,デンマーク渡航の際にも持って行ってください.あとで住民登録の時に使います.
次は大使館での面談(Biometrics)です.
2. 大使館へ行く
必要書類を提出したら東京にあるデンマーク大使館(http://japan.um.dk/ja/)にメールでアポイントメントを取ります.
適当な日程が指定されるので,その日に家族みんなで大使館に行きます.
大使館では書類を提出した際の確認画面のコピーとパスポートを見せて,顔写真と指紋,筆記サインをとられます.
ちなみにうちの0歳の娘は写真,指紋,サインはとられませんでした.その代わり,メールで顔写真を送るように言われたので,パスポート作成に使った写真の余りをスキャンして提出しました.
合計して30分くらいだったかと思います.特にトラップもなく簡単です.
3. Residence permitが届く
提出書類に不備や不足があると大使館に行ってから1週間くらいで家に手紙が届きます.それが来てしまったら速やかに書類を再(追加)提出しましょう.
特に問題がなければ,入国管理局のHPに書かれている標準日数が経過するころにResidence permitの紙が家に届きます.
この紙は非常に大事なので必ずスキャンして紙とデータの両方で持っておきましょう.
後ほど入国審査や住民登録の際に使います.
4. 住民登録に必要な書類をアップロードする
(*コペンハーゲン付近に住む場合のみ.その他の地域は5を参照.)
Residence permitが届いたらデンマーク渡航前でも住民登録の準備が始められます.
渡航したら5日以内にデンマークの首都コペンハーゲンにあるInternational house Copenhagen(https://ihcph.kk.dk/)で住民登録を行いますが,申請者がたくさんいるので,事前にHP上で必要書類をアップロードしたうえで,予約を取って申請に行くことになります.
Residence permitの申請プロセスとよく似ています.
アップロードする書類はResidence permitを申請する際に使ったものとほとんど重複していますのでデータを使いまわせば大丈夫です.新しく必要なのは住所を証明するもの(アパートの契約書やAirBnBの領収書など)ぐらいです.
必要書類をアップロードして提出すると,しばらくしてInternational houseから連絡が来ます.書類に不備があった場合は書類の再提出が求められます.問題なければ到着日に合わせて適当な日が予約されます.
5. 住民登録をしに行く
渡航したら住民登録をしに行きます.
コペンハーゲンに住む人については予約日にパスポートとResidence permitをもってInternational houseにいけば住民登録が完了できます.
それ以外にも,自分が住む自治体の役所で直接住民登録を行うという手もあります.
(実は私たちの場合,借りた家の住所がたまたまInternational houseのシステムで処理できない住所だったために「住んでいる自治体の窓口で住民登録すること」と言われてそうしました.)
自治体の窓口で住民登録を行う場合は大きな街であれば予約なしですぐに住民登録が完了できます.必要な書類はInternational houseのHPにアップロードする場合と同様で,Residence permitの申請で使った書類たちと住所を証明するものです.このとき大家さんについてきてもらえるとすごく安全です.
住民登録が終わってしばらくすると登録した住所にCPR numberカード(日本でいうマイナンバーカード)とイエローカード(保険証兼いろいろ)が届きます.これらのカードのシステムについてはそのうち紹介したいと思います.
6. Nem IDを入手する
デンマークのさまざまなネット関係のサービスを利用するにはNem IDという暗号カードのようなものが必要になります.入手方法はおおきく分けて2つあります.
(1) 役所の窓口で申し込む
(2) 銀行口座を開設する(←私はやらなかったので詳細は他の人のブログ等を見てください)
CPR numberカードを入手した後に,どちらかの方法でNem IDカードを取得します.
基本的には申し込んでからしばらくして郵送で届きます.
デンマークに来て行う行政手続きは以上になります.
結局,郵送の待ち時間も含めて渡航して1か月ぐらいは手続き尽くしでした.
番外編
家探し
私たちの場合,デンマークでの家はAirBnBで探しました.
1人暮らしであれば安いアパートなどもあったのですが,妻と0歳の子供もいるので少々値が張っても条件のいい場所を探しました.
低所得者かつ半年以上滞在する場合は行政に頼んで駅前の公営住宅のような場所に住むことも出来るようです.
携帯電話
私も妻も日本でSIMフリーのスマホを使っていたので,デンマークではプリペイドSIMを購入して使っていました.
私たちが使ったのはLeberaという会社のもので,デンマーク国内に加えてEU圏内(何回かEU内の出張があったので)でデータ通信が出来るプランを選んでいました.
ひと月あたり1700円くらいで60分の通話と60GB のデータ通信(正直こんなにいらない)が出来ます.
↓こちらにとても分かりやすいまとめを書いてくださっている方がいます
https://hyggegoddag.hatenablog.com/entry/2018/07/14/055815
Leberaの他にはlycamobileなんかも人気です.
以上,質問がある方は遠慮なくコメントください.
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